和包丁も比較してほしいです ―「和包丁・洋包丁・ユニバーサルエッジ」の比較表―
- tihal86
- 2024年12月21日
- 読了時間: 7分
更新日:3月15日
先日、新しい性能比較表のブログを読んだ方から「和包丁も比較してほしいです」と要望があったので、和包丁もプラスした比較表を作りました。
あらためて和包丁を含めて比較表を作ってみたところ、「和包丁は家庭用には向いていない」という結論が出ることになりましたが、和包丁の文化を否定するつもりはありません。
車に例えると、ユニバーサルエッジは、「ファミリーカー」のような包丁、そして和包丁は「クラシックカー・レーシングカー・大きな荷物を運ぶためのトラック」など、使用目的に特化した包丁と言えるかもしれません。
また、プロの世界や海外向けに売れている事実はあり、和包丁のニーズがあることは間違いありません。
「和包丁は切れ味が良い」と感じる人がいたり、「見ていて美しい」と感じる人がいたり、「砥ぐのが楽しい」と感じる人がいたり、人それぞれだと思います。
※以下のブログも参考に
弊社では主に、家庭用の万能包丁(洋包丁)を研究しているのですが、もちろん実験として和包丁を使ったことはあるので、これまでの経験を元に洋包丁と比較しました。
また、和包丁は包丁ごとに役割が決まっているため、代表的な3種類に分けてそれぞれ評価しました。
あくまでも主観による「可・良・優」の3段階評価のため、とてもざっくりとした比較で
す。

表を見ると、家庭用として考えた場合、「出刃・柳刃・薄刃」のそれぞれ一番良い評価を合わせても、従来型万能包丁の総合性能が高いことがわかります。
さらに、従来型万能包丁よりもユニバーサルエッジの総合性能が高いことがわかります。
参考:各包丁の薄切りの刃離れについて
・和包丁でも「小刃」大きくつけたものは薄切りの刃離れが良好な場合があります
・両刃の包丁でも「切っ先の引き切り」をすれば薄切りの刃離れが良好な場合があります
◎各項目の説明
以下に、上記性能比較表の各項目について簡単な説明を書きます。
・薄切りの刃離れ
和包丁はどれも薄切りの刃離れをしないので「可」としました。
刃離れについて書いたブログは以下です。
・薄切りの安定
片刃の包丁は薄切りの安定性が高いのですが、特に薄刃包丁は薄切りのときには扱いやすいので「優」としました。
薄切りの安定性については以下のブログを参考に。
・千切り
千切りは薄切りのしやすさに比例するので、片刃の包丁が得意なのですが、出刃包丁は刃が厚いことや、刃渡り、刃線が曲線などの条件によって難しく感じます。
千切りは薄刃包丁の得意ジャンルです。
・みじん切り
出刃包丁はやはり刀身の形や重さによって扱いにくく「可」としました。
薄切りと刃離れの総合性能が大切なので、薄刃包丁の得意ジャンルですが、ユニバーサルエッジはさらに得意です。
1億回再生された玉ねぎのみじん切りの動画は以下です。
・皮むき
出刃包丁は重心の関係やハンドルからアゴまでの距離が遠いことなどの理由で「可」です。
・切り分け(野菜)
和包丁は片刃なので、硬いものの切り分けは苦手分野です。
柳刃と出刃は刃の厚みによって硬いものの切り分けがさらに困難なので「可」としました。
・切り分け(肉)
軟らかいものの切り分けは、刃の薄さよりも刃先の鋭さが大切な面もあるので、刃渡りが長く砥ぎ角が鋭い包丁が「優」です。
薄刃包丁は刃先は鋭いのですが、刃渡りが短く刃線が直線的で切っ先が平らなので肉の切り分けは苦手なジャンルです。
・コスパ
和包丁は専用包丁なので常に数丁用意しておく必要があること、そして錆びやすいため「砥ぐ手間」がかかることなど、多くのコストがかかります。
和包丁のコスパは「可」としました。
・寿命
和包丁は寿命が短い傾向があり評価は「可」です。
和包丁は3種類を使い分けているので、ユニバーサルエッジの3倍長持ちして同等です。
以下、4年で4万食作ったユニバーサルエッジの減り方を見ていただければ、和包丁の寿命の短さがわかると思います。
ユニバーサルエッジの減り方
柳刃包丁はなぜ減りやすいのか
・汎用性
和包丁は食材ごとの専用包丁なので汎用性はほとんどありません。
そのため「可」という評価です。
・安全性
柳刃包丁は刃が長いため、切っ先でケガをする人が多いのではないかという懸念から「可」になりました。
和包丁のグループは、重心が切っ先寄りで、かつハンドルにひっかかりがないものが多いので落下の可能性も高いのですが、やはり危険度に影響するのは「刃渡り・切っ先の鋭さ」と判断し、柳刃包丁の安全度を「可」としています。
ユニバーサルエッジには、新品状態で4つの安全性能が備わっているため「優」です。
ユニバーサルエッジの安全性能については以下を参考に。
・砥ぎやすさ
和包丁は全般的に砥ぐ面積が多く砥ぎにくいため評価は「可」です。
詳しくは以下を参考に。
砥ぎやすい包丁とは
新しい砥ぎ方「シームレス砥ぎ」について
・SDGs12つくる責任達成度
より良いものを作るために、金属の節約、作る労力の節約、切れ味を維持する労力の節約、安全性など、課題はたくさんあります。
和包丁は様々な面でコストがかかるため「可」としました。
性能比較表については以上です。
本来和包丁は比較する対象ではないのですが、あえて比較すると、このような表と説明になります。
◎和包丁が家庭用として向いていない理由
和包丁が家庭用として向いていない主な理由は「厚い刃」と「裏スキありの片刃」という構造です。
差し込み式のハンドルや木柄ということ、刀身の素材や重心位置などの理由もありますが、やはり厚みのある刀身のデザインが、和包丁が家庭用として向いていない一番の理由です。
「厚い刃+裏スキありの片刃」の和包丁は、硬い野菜を切り分けるのは困難で、野菜をメインに切るようになった現代の生活様式の家庭では、扱いにくさが目立ってしまいます。
和包丁が「厚い刃」と「裏スキありの片刃」になる理由は、「数百年前の刃物用鋼材」と「手作り」という生い立ちにありそうです。
昔の鋼材は現在の鋼材よりもろかったことや、刀身が手作りのため厚さが不安定だったこともあり、厚さ2㎜以下の高品質な刀身を大量に生産することはできませんでした。
ポイントは、厚さ2m以下の高品質な刀身を「大量に」というところです。
たとえば500年前でも、たまたま現在と同じレベルの刀身を作ることができたかもしれませんが、再現性に乏しくとても高価なものなら、家庭用としては普及しません。
昔の技術で実用的な刀身を作ろうとすると、「厚い刃」が必要だったということです。
折れたり曲がったりしない実用的な包丁を作るには、おそらく4㎜程度の厚さが必要になり、その厚さの包丁を頻繁に砥ぎ直すには片刃にする必要があったと思われます。
※昔は砥石を使ったため、厚い刃の刀身を砥石で砥ぐ場合、両刃よりも裏スキがある片刃の方が楽です
「和包丁は数百年前の刃物作りの手法を受け継いでいる」と言われることがあります。
しかしこれが本当なら「刃物作りは数百年間進化していない」ということでもあり、また「時計も温度計もなく識字率が低かった時代」の手法が、どこまで正確に現代に伝わっているのかという疑問も残ります。
ということで、和包丁が家庭用として向かない理由は以上です。
◎理想の家庭用万能包丁
和包丁は、「厚い刀身」と「裏スキのある片刃」の組み合わせですが、ユニバーサルエッジは、「薄い刀身」と「裏スキのない片刃」の組み合わせです。
薄い刀身で裏スキのない片刃を作るために必要なものは、主に靭性の高い刃物用ステンレスと、それを薄く均一に伸ばす技術などですが、文明の進化によって、現在はそれらが可能になりました。
さらに、薄い刀身と裏スキのない片刃の組み合わせは、メーカーもユーザーも求め続けてきた「薄切りの刃離れ」を、最も単純な方法で実現することになりました。
※「最も単純な刃付け」が生み出す効果
包丁は刀身が薄いほどトータルの切れ味が良くなるだけでなく、刃付けの手間や使う金属の量の節約などにもなるため、包丁を作っていた昔の職人たちは、「薄い刀身」を作りたかったはずです。
ユニバーサルエッジは家庭用として理想的な包丁ですが、昔、和包丁を作っていた職人たちにとっても「理想の包丁」と言えるかもしれません。
以上、「和包丁・洋包丁・ユニバーサルエッジ」の比較表についてでした。